認知行動神経科学教室では,「基礎研究から臨床応用へ(From Basic to Clinical)」を理念に掲げ,脳機能障害のメカニズム解明と新たな治療法・リハビリテーションの確立を目指しています.脳卒中後に生じる感覚・運動機能の障害や半側空間無視,さらにはPTSD等に関連する恐怖記憶といった多様な中枢神経系の課題に対して,齧歯類を用いた分子・細胞レベルの基礎研究から,ヒトを対象とした非侵襲的脳刺激などの応用研究まで,多角的なアプローチを展開しています.

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脳損傷後に生じる感覚入力経路の再編成と新規介入方法の開発

脳卒中などの脳損傷後には,失われた機能を代償するために脳内で大規模なネットワークの再編成が生じることが事実として知られています.本プロジェクトでは,齧歯類およびヒト患者を対象に,電気生理学的な解析と解剖学的検討を融合させています.
これらの手法により,損傷という「非常時」において,体性感覚情報がどのように伝達され,脳内で処理されるのかという伝達機構の全容を明らかにすることを目的としています.将来的には,この感覚情報経路の再編成メカニズム(可塑性)の知見を利用し,機能回復を最大化する新規の介入手法の開発へ繋げます.

臨界期を超えて半側空間無視からの回復を誘起する新規物質の同定

半側空間無視(Unilateral Spatial Neglect; USN)は,脳卒中後に高頻度で生じる高次脳機能障害の一つです.これまでに,若年者のUSNは回復しやすく,高齢者では症状が残存しやすい傾向にあることが報告されています.本プロジェクトでは,この「年齢による回復能力の差」に着目しています.
若齢および老齢の脳梗塞モデルマウスから得られた行動データや遺伝子発現データを比較分析することで,USNの回復を阻害,あるいは促進する分子メカニズムを特定します.加齢による回復停滞の要因を推論・解明し,最終的には回復の臨界期を延長・再開させる薬剤(新規物質)を同定することで,効果的なUSN薬物治療法の確立を目指しています.

恐怖記憶の消去法の開発

心的外傷後ストレス障害(Post-Traumatic Stress Disorder; PTSD)などに代表される過度な恐怖記憶は,患者の社会復帰を困難にする要因です.記憶は一度思い出す(想起)と不安定な状態になり,その後再び脳に定着(再固定化)するという生理学的事実があります.本プロジェクトでは,この再固定化のプロセスを標的としています.
具体的には,恐怖記憶を想起させた直後の不安定なタイミングにおいて,経頭蓋直流電気刺激を用いた非侵襲的脳刺激を実施します.これにより,記憶の再固定化プロセスを物理的・生理学的に阻害し,恐怖記憶を完全に消去(忘却)させる新たな治療プロトコルの確立を検証しています.